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蒼夜の混沌とした頭の中を徒然に書き綴るぺぇじ
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リビングの扉を開くと、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。
テーブルの上に並んでいる朝食が匂いの元のようだ。
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「……」

「うーん、結構忙しかったねー」

「……」

「って、天夜くん大丈夫?」

「……つ、疲れた」

「あはは、お疲れさま。今日は久しぶりに本当に忙しかったからね」


「ん……」

音が聞こえる。

トントンとリズミカルな包丁の音。
くつくつと鍋がたてる音。
新聞をめくる音。

そして、俺を起こす声が――

「朝だよ。起きて、おにーちゃん」

――そう、おにーちゃん…………おにーちゃん?

おかしな呼びかけに、閉じていた目を開いた。
目に入ったのは夢で見た朝の光景ではなく、見慣れぬ部屋の天井だった。
天井を見ながらぼーっとしていると、視界に赤い影が割り込んできた。

「うお!?」

「おはよう、おにーちゃん」

赤い影はファリィだった。
ファリィの姿を見て、自分が今何処にいるのかを思い出した。
…………ちっ、夢オチじゃなかったか。
少なからず夢であって欲しいという願望があったのか、軽くへこむ。
とはいえ、へこんでいても始まらない。戦わなきゃ、現実と。
さしあたってするべきことは、ファリィに挨拶を返すことだろうか。

「おはよう、ファリィ。悪かったな、わざわざ起こしてもらって」

「うん。おにーちゃん、お寝坊さんなんだね。ぜんぜん起きないんだもん」

う。

「いや、ホントに悪かった。サンキュな」

「サンキュ?」

首を傾げるファリィ。
そういや、こっちには無い言葉だったか。

「礼の言葉だ。ありがとうって意味だよ」

「そうなんだー」

納得したのか大きく頷くファリィ。
動作の一つ一つがいちいち大きいのが、子供らしくて微笑ましい。

「それじゃ、どういたしましてだね。朝ごはんできてるから、はやく起きてきてね」

そう言って部屋を出ていくファリィに手を振って答える。

さて、それでは起きるとしますか。

「うぃーす」

「あ、おはよう天夜くん。ダメだよ、挨拶はちゃんとしないと」

「うす。おはようございます、店長」

「うん、よろしい」

「……で、何したらいいっすか?」

「んー、今はそんなに忙しくないから、道具の手入れとかしててくれるかな?」

「うぃっす」

「もう少ししたら、注文がいくつか入るから。それまで待ってね」

「うぃっす。……“視”えたんすか?」

「うん。あと30分くらいで大口の注文が入るよ」

「じゃ、手入れは軽く一通りすね」

「あ、“森羅針盤”は触らずにおいてね。もう調整は済んでるから」

「りょーかい。んじゃ、炉の様子でも見てきます」

「お願いね。ついでに、天夜くんの道具の用意もね」

「あ、店長。三昧バーナーの劣化が激しいんで、替えといていいすか?」

「あれ? もうダメになってた?」

「ああいや、もう何回かは使えそうなんすけど、大口の客が来るなら心もとないっすね」

「そっかー。それじゃ、悪いけどお願いできるかな」

「うぃーっす。んじゃ、替えてきます」
「ふう」

ため息を一つ吐き、夜空を見上げる。
瞳に映るのは煌めく無数の星。一際強く輝く二つの月が、ここが異世界だということを教えてくれる。



あの後センギの作った夕飯をご馳走になった。
センギは、お客さんにご馳走するのは久しぶりっスよ、なんて言っていたが、目茶苦茶美味かった。
(まあ、自分たちが食べる分は毎日作ってるわけだから、ブランクとかがあるわけじゃ無いんだが)
今はせめてもの礼にと食器を洗い終わり、涼みに外へと出たところだった。


普通に学校に行って授業を受けて帰宅して。
何も特別なことはしてないのに、なんでこんなことになってんだろうな。
俺が世界の理不尽を嘆いていると、背後から声がかけられた。

「あれ、直哉さんこんなとこで何してるっスか?」

振り返ると、両手にコップを持ったセンギがいた。

「ああ、ちょっと涼んでただけだ。そっちはどうした?」

「ファリィをお風呂に入れてきたら、直哉さんの姿が見えなかったっスから。探しにきたっスよ」

そういや何も言わずに出たな。

「悪い悪い。一言言っとけばよかったな」

「いえ、それはいいっスけど。あんまり一人で遠くに行ったらダメっスよ」

危ないっスからね、と警告するセンギ。
また獣やらに追いかけられるのは勘弁だしな。
俺としても、わざわざ危ないところへ近づく気は無い。

「出かけたい時は、オレかファリィに声をかけてくださいっス」

「ああ、わかった」

「あっと、忘れるとこだったっス。これどうぞっス」

そう言って片方のコップを渡してくるセンギ。
コップの中には、薄青色の液体が入っていた。

「クンの実のジュースっス。美味しいっスよ」

「ああ、サンキュ」

「サンキュ……?」

「俺の世界の言葉で、礼の言葉だ。っと、これ美味いな」

ほんのりとした甘味とのど越しの良さが、なんともいえん。

「そうなんスか。勉強になるっスね。クンの実はいろんな物に使えるっスから、重宝するっスよ」

「ふーん」

そうなのか。

「さ、飲み終わったらもう寝た方がいいっスよ。明日は朝早いっスから」

「朝早いって、何でだ?」

「んー、明日のお楽しみっス」

「ふーん?」

……ま、いいか。
明日になればわかるだろ。
それより、明日ちゃんと起きれるかな。
限界以上の速度で走ったりしたせいで、身体中がぎしぎしいってるんだが。
一度眠ったら、しばらく起きれないぞ、これは。
ただでさえ早起きは得意じゃないし。

「そんなわけだから、俺が起きてこなかったら起こしてくれ」

「どんなわけっスか……」

苦笑しながらも、了解っス、と言ってくれるセンギは良い奴だと思う。
さすがに起こされれば起きるだろ。


……寝て起きたら、自分の部屋だったりしねえかな。夢オチだったら色々と楽なんだけどなァ。


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