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蒼夜の混沌とした頭の中を徒然に書き綴るぺぇじ
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トントントン、と小気味良い音が響く。

それよりも若干小さな音が、トン、トン、トンと響く。




そして、二つの音に埋没するように、トン……、トン……、トン……。
途切れ途切れで、どこか危なっかしい音が響く。

トン……、トン……、ガツッ!

「うお!」

「おにーちゃん、だいじょうぶ?」

「お、おう。大丈夫だ。……ギリギリで」

左手の人差し指ギリギリに突き立つ包丁に冷や汗を流しながら、ファリィに答える。

「無理に手伝わなくても、休んでてもらっていいっスよ」

流れるように包丁を操りながら、センギが苦笑する。
淀みないその動きは、見ていて感心するほどだ。
料理することに慣れた人間の動き。
うちの弟と同じような動きだ。

「いや、そういうわけにもいかんだろ。泊めてもらってる身なんだし、手伝いくらいは」

「気持ちは嬉しいっスけど……」

「おにーちゃん、おりょうりへただねー」

「ぐっ」

言い淀むセンギの代わりに、ファリィが続きを口にする。
真実だけに、胸にぐさりと刺さる。
くう。こんなことなら、もう少し料理をできるようにしておくべきだったか。
家での食事は、ほとんど直人に任せてたからなー。
まさか、料理がこんなに難しいものだったとは。
いくら忙しかったからって、ほとんどやらせてしまって。
ごめんな、直人。
無事に帰れたら、兄ちゃんもうちょっと手伝うからな。

「料理の腕がどうこう以前に、直哉さん、今は全身疲労でろくに動けないじゃないっスか」

「うぐっ」

そうなのだ。
ファリィに乗って空を飛ぶことによって受けた疲労は、まだ全然回復していないのである。
それでも、食事を用意してもらって、自分は座っているだけっていうのは、些か申し訳ない。
だから、手伝いを進み出たんだが。

「逆に迷惑だったか……」

「いやいや、そんなことはないっスよ。でも、直哉さんはお客さんなんだから、ゆっくりしててほしいっス」

お客さんを働かせたら面目ないっスよ、とセンギ。
うう、気を使わせてしまった。

「おにーちゃんはすわってまってて。わたしがごちそうしてあげるから」

ふ、ファリィにまで……。

「うう、ごめん。それじゃ、おとなしく待ってるわ」

使っていた包丁とまな板を片付けて、台所を出る。
そのまま、ふらふらとリビングの椅子に座り込む。

「うだー」

本気で身体に力がはいらねー。
ファンタジーだとよくドラゴンに乗ったりする場面があるけど、ありゃウソだろ。
ちゃんと訓練した人間ならまだしも、子供が乗って平気とか、ありえねえ。
どういう訓練したら、平気になるんだ?
乗馬とかか?

「うーん」

椅子に身体を預けたまま、つらつらと考えていると、

「ん?」

「む?」

いきなり玄関の扉が開き、金髪の美人が入ってきた。
いきなりのことに、二人とも反応できずに硬直する。

沈黙。

台所から聞こえてくる、包丁の音だけが響く。

先に動いたのは、彼女の方だった。

「誰だ、キサマは!? 何故この家にいる!」

「うお!?」

ものすごい迫力で詰め寄られた。
その勢いのまま、襟首を掴まれて、

「ちょ、絞まる。絞まっでる!」

凄い力だ。
気道と血管を同時に絞められているせいで、あっという間に意識が薄くなっていく。
気のせいか、地についた足の感覚がない。
やべえ、死にはしないけど、失神コースだこれ。
タップして降参を伝えようにも、既に腕が動かない。

あ、駄目だ。

落ちる――。

「あれ、グレイズ。……何やってるっスか?」

意識を失う直前、不思議そうなセンギの声を聞いた気がした。
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